バナナでも釘は打てる

柔らかく美味しいバナナでも、ちょっとした工夫で釘は打てます

読了 - PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

自己啓発書から離れてみよう」シリーズ第3弾。

本書は、スティーブ・ジョブズピクサーへの経営参加を請われた1994年から、株式公開を経て、ディズニーによる買収に至るまでの出来事が、生き生きと描かれたピクサーの自伝とも言うべき物語。

財務的な視点で語られるスタートアップ企業の裏側が、こんなにワクワクしながら読めるとは思ってもみませんでした。

物語として、かなり楽しめます。

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本書でのヤマは3つ。

株式公開に至るまでの奮闘、ディズニーとの契約やり直しの攻防、ディズニーによる買収。

株式公開するには、投資家に「この会社のブレイクに便乗したい」と期待させなければいけないようです。

この場合は、ヒットを生み出す制作会社であること、ヒットを生み続ける力があること、十分な収益を獲得する成算があること、でしょうか。

まず著者がやったのが当時のピクサーにおける事業性の確認。

事業の柱は制作中の長編映画以外に3つ。いずれも期待できない状況。

長編映画はディズニーとの契約で制作費用は出してもらえるものの、客観的に言えば隷属的な内容。

状況を変え、ピクサーを立て直すには外部からの資金調達、株式公開しかない。

こういう状況下で著者はCFOとして事業計画を立てていくのですが、映画1本あたりの収益見込みだったり、株式公開するために繰り出すアクション(投資銀行や投資家向けレポートを書くアナリストの獲得など)が臨場感あふれる話になっています。

これまでCFOの役割を考えたこともなかったのですが、本書でイメージできた気がします。

その役割を簡単にまとめると、

  • 社内のお金の流れの健全化
  • 外部からのお金の確保、つまり収益増加や資金調達
  • 株価という「市場の期待」にどう応えるかを考える

お金の流れの健全化といっても本書では仕入れとか支払いの話は出てきません。

アニメ制作という、技術と知恵とアイデアが元手の事業だからでしょうね。

コンテンツ1本あたりにかかる費用と売上、1年間に作れるコンテンツの数量、マーケットの規模、そういう視点で見て、事業性のないものを変えるか、やめるか判断していくのが役割と見ました。

将来、株式公開を考えている方なんかは、何をしたらよいかを知る意味で本書は面白いのではないかと考えます。

おまけ『トイ・ストーリー』が動物や人間ではなく、おもちゃのアニメーションだった理由

ついでですが、ここはネタ的に面白かったのでご紹介。

おもちゃはプラスチックでできている。表面は均一で微妙なむらがない。肌を描く必要もない。動くたびにあちこちしわができる服もいらない。コンピューターで描くにはおもちゃのほうがずっと簡単なのだ。

映画がアンディの寝室から始まるのも同じ理由だ。寝室は全体が単なる直方体だし、そこに置かれているベッドもドレッサーも、扇風機や窓やドアも、戸外に存在するあれこれに比べると幾何学的で描きやすい。光の処理も簡単だ。

おもちゃを登場人物にしたのは必然だったんですねぇ