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読了 - ハーバードの個性学入門: 平均思考は捨てなさい

平均的パイロットはいない

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本書の序文を読んで驚きを感じてしまったこと、それは自分の中に平均思考があるということなんだな、と気づかされてしまいました。

その箇所をざっくり要約すると

ジェットエンジンの黎明期でもある1940年代の末、アメリカ空軍ではパイロットが飛行機を制御できなくなったという問題があり、多数の死亡事故に繋がっていた。

飛行機のコックピットは1926年に米軍が始めて設計した際、何百人ものパイロットの身体を採寸し、その平均値に合わせて座席の大きさや形状、ペダルや操縦桿までの距離が規格化されていた。

米軍はパイロットの体格が当時に比べて大きくなったのでは?と考え、改めて4000人以上のパイロットの身体の各部位について採寸し、基準となる平均値を改めようとした。

その結果わかったのは平均的パイロットはいないという事実だった。

身体の各部位のうち10項目について、平均値±30%に入る人を平均的パイロットとして調べたところ、該当者はゼロ。

項目を3項目だけに絞ってみても平均値±30%に収まるパイロットは全体の3.5%未満しかいなかった。

平均的思考の課題

世界的に平均思考が広まったのは、フレデリック・テイラーが20世紀初頭に提唱した科学的管理法(個性を重視しない平均主義を中心に据えれば無駄は系統的に解消される)によるものなんだそうです。

機械化された工場の中で、機械の働きを人間がサポートすることが働き方になり始めた時代、平均が集団の中の故人を評価するのに便利だったこともあり、個人は平均との比較で評価されるべきという確信を持つ社会へと進んでしまった。

しかし本書は

社員の無関心は標準化と階層管理というテイラー主義の原則に依存しているほとんどの組織に蔓延している。

と指摘しています。

管理しやすいことが善である以上、平均値から外れることはその方向がプラスであれ、マイナスであれ、悪ということになってしまいます。

それなら個性を発揮してネガティブな評価を受けるリスクより、大人しくして平均的な評価を受ける方がマシだと考えても仕方ありません。

その結果、組織に対して無関心な社員が増えて、組織全体の活力が減って、いずれ潰れる。

社員の興味は「自分は逃げ切れるか?」でしょうか。

社員の「組織に対する無関心」を変えようと努力する企業は多いと思います。

でも、評価制度まで併せて変えていっている企業ってどれくらいあるんでしょうね。

個性を理解する上で有効な3つの原理

■バラツキの原理

要するに、複雑でバラツキのあるものを理解するために一次元的思考は役に立たない、という前提があり、個人の資質はバラツキのある複数の要素で構成されている、ということ。

■コンテクストの原理

この原理がいうのは、個人の行動は、個人の持つ特性だけでなく、状況によって決まるということ。

ま、言われてみれば当たり前なのですが、平均的思考では忘れられがちです。

■迂回路の原理

これは和訳がまずいのでしょうか?

本来、迂回路という言葉は「最短経路ではない回り道」の意味ですが、本書ではそういう意味で使われていません。

本書の「迂回路の原理」が言いたいのは、ゴールに至る道筋が複数存在していて、どれが最適かは個性によって決まる、誰にとっても最適となる一つの道筋は存在しない、ということでした。

上記のまとめだけだと、なんか当たり前な感じがしますが、20世紀の著名な教育学者ベンジャミン・ブルームが教育のプロセスについて行った実験は、ちょっと驚きを感じます。

曰く、

  • 平均的思考に基づいた標準的な学習プランに従って教育した場合、成績優秀者と成績の悪いものが少数存在し、残りの大多数は中央に分布する。
  • 一方、生徒が自分のペースで学習できる環境を与えた場合、90%以上の生徒が成績優秀者として評価された
  • つまり、標準的なプロセスを決めて学習させると、多くの人が能力を開花させることが出来ない。

学校だけでなく、企業も部下や後輩を教えるわけですが、教え方次第で本来の能力を引き出せずにくすぶらせてることが、結構ありそう、ということですよね。

個性学はどう活かす

本書は個性学入門というだけあって、これをどう活かすというところまでは踏み込んでいません。

企業にとっては人材の評価、育成と組織運営でしょうか。

個性の理解は必須ですが、組織にとって効果的な行動を引き出すには、理解だけでは足りません。

組織として目指す価値観と原則を共有し、社員が個性を発揮できるよう、責任と裁量を与えることが必要になります。

裁量を与える側の「任せて大丈夫?」という不安を減らすには、どれだけ価値観と原則が共有できているか、ですね。

おお、リッツ・カールトンのやり方(読了 - 伝説の創業者が明かす リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法)って、ちゃんと出来てますね。

既に出来ている組織はいいですけど、やっぱり平均的思考から個性重視への脱却って難しいです。

平均的思考で評価されてきた上司が、自分を「優秀」と評価した考え方を捨てるのは容易ではないはず。

トップダウンで個性重視のチームを新設&増殖していって、徐々に世代交代を促すのでしょうか?

それしかないような、でも難しいような。