読了 - 会話を哲学する
会話 > 情報伝達
「会話とは何か?」と問われてすぐに思いつくのは「情報伝達の手段である」ということ。
しかし、伝達の目的がなくても会話は起きる。
わかりやすい例の1つは「雑談」か。
本書は「コミュニケーション」と「マニピュレーション」が入り混じったものだという。
それぞれの意味合いは以下。
コミュニケーション … 発言を通じて話し手と聞き手のあいだで約束事を構築していくような営み。
会話の参加者同士の内で「今の会話のなかでは、こういうことにしておきましょう」といった合意を重ねていくこと。
マニピュレーション … 発言を通じて話し手が聞き手の心理や行動を操ろうとする営み。
共感してもらおうとか、会話のテーマについて考えてもらおうとかいう感じのものと理解すれば良い。
とはいえ、日頃の会話の中で「この部分がコミュニケーション」「次から話すのはマニピュレーション」などと切り分けて会話なんかしていなくて、両者は会話中で入り組んでいて分かりづらい。
それでなんでしょうね。
2章~7章までは、章ごとに会話を掘り下げる切り口を掲げながら会話を考える形式となっている。
2章 わかり切ったことをそれでも言う
3章 間違っているとわかっていても
4章 伝わらないからこそ言えること
5章 すれ違うコミュニケーション
6章 本心を潜ませる
7章 操るための言葉
特に興味深かったのは6章。
口では「逃げるな」と言いながら、逃げるための情報を伝えることで暗に「逃げろ」と伝えるシーン。
確かに、こういうやり取りは小説やドラマでもよく使われます。
会話をうまく構成することで、説明っぽくならずに読者や視聴者にいろんなことを察するよう仕向けてるわけですね。
本書では、よく知られたフィクションの中での会話を題材としています。
有名なフィクションだから、登場人物の性格やそのシーンに至るまでの背景、それらも読者の頭には入ってます。
そうすると、取り上げた会話の中に潜むモノさえも浮き上がってきて、「なるほど」感が増すんですね。
抽象的なことを伝える方法としてはウマいやり方です。
本書を読むと、小説とかマンガを読むたびに隠されたやり取りを探したり、著者の言葉選びが気になったりしそうですが、会話という身近なコトの本質を考えてみるという意味では楽しい書籍でした。