バナナでも釘は打てる

柔らかく美味しいバナナでも、ちょっとした工夫で釘は打てます

読了 - 売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する

ツリっぽい表紙ですが、本書のコアは「売らなくても儲かる仕組みを科学する」

というか「必死に売り込まなくても儲かる仕組みを考えよう」ですね。

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本書で取り上げたアプローチで興味深かったビジネスを幾つかピックアップしてみます。

ネスカフェアンバサダー

知見のなかった法人向け市場に切り込むために考え出したのが「顧客に売ってもらおう」。

一時期、テレビのCMでも見かけましたが、コーヒーマシンを無償で貸し出し、特定の顧客(ネスカフェアンバサダー)が職場みんなの分をまとめ買いする方式。

これならBtoBの取引ではないので法人間契約の面倒な手続きが不要。自販機を設置するスペースがなくてもOK。

蔦屋家電

扱っている商品はちょっと変わった新製品。店舗で一部の商品は購入できるけれども、本質はマーケティング調査目的のショーウィンドウ。

製品を展示する区画を月額いくらでメーカーに提供するとともに、店員がリアルな顧客に接して商品を説明し、会話の中から顧客ニーズを巧みに引き出す。

これに、店内設置のAIカメラによる分析データと合わせてメーカーと共有するというのが蔦屋家電+のビジネス。

当たり前だったプロセスを見直したり、プロセスそのものを売り物に変える、というやり方は応用範囲が広いです。

理想的な顧客像を決めるステップ

多様化した価値観、生活スタイルが当たり前になりつつありますが、万人向けの商品やサービスがうまくいかないことは周知のことです。

それでも、尖り過ぎたら買ってくれなくなるし、ターゲット顧客を広げたら商品・サービスの特徴がボケる。

このバランスに悩むのが普通なのでしょう。

そんなこんなで、自社における理想的な顧客像を描くのが大事になっていますが本書にあった手順は使えそうです。

  1. ベストな顧客名をリストする
  2. 最悪な顧客名をリストする
  3. ベストな顧客の特性を把握する
  4. 最悪な顧客の特性を把握する
  5. 理想的な顧客のプロフィールを決める

両極端を具体的に考えることで、理想像を描きやすくなるんですね。

ソフトウェア業界で「最悪な顧客」というと、いろんなところからデス・マーチな話が噴出しそうですが…

「低価格戦略」と「高価格戦略

「低価格戦略」と「高価格戦略」のどちらかを選ぶか、悩む人は多い。

迷うのであれば、選ぶべきは「高価格戦略である

これも言われてみると納得なのですが、あまり意識できてなかったです。

確かに、低価格戦略の商品・サービスを支持する顧客は、価格感応性が高いです。

このため競合との争いがさらなる低価格を目指すことになり、体力勝負になってしまいがちです。

居酒屋 鳥貴族が例として挙げられていますが、一度低価格に慣れた顧客は「値上げ」によって「もっと安い店」に流れてしまいます。

なおQBハウスが値上げで客離れしなかった例として紹介されてますが、これには異論ありです。

QBハウスは「カットのみ10分で1000円」で新たな散髪ビジネスを生み出した訳ですが、従来の「散髪=カット+顔そり+洗髪」という定義を分解し、「カットのみ」が成立することに気づいた点が秀逸だったんです。

洗髪と顔そりをやめると、洗面台が不要になりました。

そして極論かもしれませんが顔そり技術が不要なので資格者の少ない理容師でなくてもいい(理容師か美容師の資格がないのはダメ)。

つまり低価格は結果であって、戦略的に志向した訳ではないでしょう。

むしろ洗面台不要で店舗の設置条件が緩和され、駅の構内みたいなスキマ時間が生じやすい場所に出店できることが強みなんですよね。

このため1000円が1200円になっても客離れが少なかったのでしょう。

全体的には

QBハウスだけは気になってしまいましたが、基本的には良書です。

ビジネスの切り口を見直すという意味では、面白い本でしたね。