バナナでも釘は打てる

柔らかく美味しいバナナでも、ちょっとした工夫で釘は打てます

読了 - ヒューマンエラーの心理学

f:id:ino-agile:20171025154343j:plain

人間は、他の生物種に比べると、外界や自分の状態の認識において誤ることが圧倒的に多いです。(「ヒューマンエラーの心理学」P7)

タイトルから、ヒューマンエラーと心理の関係や、ヒューマンエラーが発生しやすい心理状態みたいな話が書いてあるのかと思って読んでみたのが本書です。

でも、読み進めてみてすぐに気付いたのは、本書は知覚認識が起きるメカニズムや、心理的に起きるバイアスについて詳しく解説した本らしい、ということでした。

そういう意味では期待にそぐわなかったのですが、「あ、これ使える」とか「知ってると便利そう」なことは見つけられたので、ざっとまとめておきたいと思います。

知覚認知が誤りやすい理由

知覚認知というのは、見る、触る、聴くなど五感で感じ取ることですが、人間がこの知覚認知で圧倒的に他の生物種より誤ってしまう理由を、簡単にまとめると以下3つ。

  • 知覚の限界
  • 環境や行動様式をどんどん変える、という人間の行動特性
  • 錯覚自体を利用する

知覚の限界というのは、あらゆることが知覚できるわけではない、という当たり前の話なので、ここでは深追いしません。(本書には結構詳しく書いてます。)

2点目は、なるほど感がありました。

曰く、人間は技術革新によって知覚可能な情報量を飛躍的に増やしてしまったものの、知覚能力に限界はあるし、知覚できても情報過多で注意しきれない。結果として多くの情報を取りこぼしているんだということです。

自動車を運転するとき、速度が速くなるほど視野が狭まる(=知覚できる範囲が縮小)というのは、よく聞く話です。時速40kmなら100度の視野があるのに、時速130kmだと視野が30度に狭まるというアレです。(JAF - クルマ何でも質問箱:速度と視野の関係を教えてください

残り70度の範囲は見えてるけど、知覚能力の限界から無視せざるを得ない。そこに大事な情報があれば、誤りに繋がってしまう訳です。

3つ目も、言われてみればそうだよね、の話です。

遠くから列車が近づいてくる映像をテレビで見る時、ちゃんと近づいてきているように聞こえますが、物理的に音源(テレビ)と人間の距離は変わっていません。

これが人間の聴覚における錯覚を利用している身近な例ですが、最近の4Dシネマは更に錯覚利用を推し進めた例ということですね。

錯覚が知覚と心理に影響する

「表情を真似ると、その表情に関連した感情が引き起こされる」表情フィードバックあたりは、よく知られている印象がありますが、面白いと思ったのは以下の箇所。

  • たとえ自分自身であっても、意思決定の過程をちゃんと把握できていない場合があることが示されています。つまり、自分自身の行った行為のための意思決定の内容や理由について、興味深い錯誤が生じることが指摘されています。
  • 自分自身の行動について、正当な理由がない場合も、どうやら違和感を感じることもなく、自分の行動を説明してしまう傾向が私たちにはあるということです。
  • 私たちは自分自身の選択的行動について、その内容が何であれ、後付けでそれらしい理由を作り出し、自分もそのことに気づかずに述べる傾向がある

つまり、意思決定に関して、その本当の意図と、その結果として生じた行動や選択内容の違いにさえ気づきにくく、自分の行なった選択の理由を自分でも明確には意識していない。

これが本当なら(本当なんでしょうけど)、誰かの行為について理由を知りたいとき、本人に聞いても無駄かもしれないということです。

理由を知りたい時って、よくあると思うのですが、参考程度に聞くぐらいでないとダメなんですね。

思いこみと選択ミス

人間には、自分の信念や価値観に相反するものを認めることで生じる認知的な不協和を避ける、自尊感情保全の仕組みがあります。

失敗に繋がるかもしれないという情報も、自尊感情を傷つけることになってしまうことから、失敗のし易さ自体が認知されにくく、記憶されにくいという性質もあるそうです。

逆に自分に都合のいい情報は認知されやすい。このため失敗のリスクを過小評価しやすく、かえってリスクを高めることになる、というのは気を付けないといけないですね。

5章では認知バイアスの話も結構書かれています。

認知バイアスというと行動経済学では「人間の不合理な判断」として扱われますが、それでも人間が今まで地球で生きてきたということは、生存のために合理的なモノだったということなのですね。

ただ、技術革新や経済発展による行動様式の変化に適応し切れてない部分が不合理になってしまう、ということのようです。

まとめ

冒頭に「期待と違った」みたいなことを書きながら、振り返ってみると結構、使えそうなネタが見つかる本でした。

特に「ヒューマンエラーは、うまく付き合う方法がある」ことに気付ける点では、良書と言ってもよさそうです。

ヒューマンエラーの心理学 (ちくま新書)

ヒューマンエラーの心理学 (ちくま新書)