バナナでも釘は打てる

柔らかく美味しいバナナでも、ちょっとした工夫で釘は打てます

読了 - カイゼンジャーニー

2019年2月、ガートナーが日本国内におけるアプリケーション開発について発表した調査結果によれば、アジャイル型を「採用中」という回答率は17%、「採用予定」が13%。

※ 詳細はこちら<ガートナー、アプリケーション開発 (AD) に関する調査結果を発表

ようやく開発現場にアジャイルが普及し始めたのかもしれないと思う反面、表面的な理解だけで取組むとうまく効果が出せずに「アジャイルは使い物にならない」といった誤った評価になってしまわないかと心配です。

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本書は、一人のエンジニアが「こんな会社はダメだ」と勤め先への不満を募らせてた日常を、自分を変えていくことから始めてチームを、周囲を変えていく、カイゼンの物語。

そしてストーリーに沿って各種プラクティスの使い方を解説するアジャイル指南書となっています。

著者の市谷さんはアジャイルが最初に注目され始めた頃からその旗手の一人として活躍してこられた方なので、本書内のストーリーも具体的なだけでなく、読者にイメージしやすいよう工夫されているようでした。

ぜひ参考にして欲しいこと

本書でもあるように、自社で初めてのアジャイルスクラムを採用するのであれば、スクラムマスターは是非とも経験豊富な人を社外から招聘して下さい。

チームメンバーの習熟度や周囲の状況によって、どのプラクティスを採択するか、プラクティスをアレンジした方が良いかなどの考慮が必要になります。

でもプラクティスは、その背景にある価値観や原則、プラクティス間の相互作用などを知らずアレンジするとロクなことになりません。

最初のスクラムの時、スクラムマスターは絶対に経験豊富な人をアサインすること、お忘れなく。

また、本書では多くのプラクティスを紹介しています。

そしてプラクティスの解説だけでなく、採用に至る状況をストーリーで補足しています。

このため、どういう時に、どんなプラクティスを採用し、どのように活かしていけば良いかがイメージしやすいのではないかと思います。

初めて使うプラクティスの場合は、使う前に本書での活用を読み返してみてください。きっと、より良く使えます。

個人的には引っかかること

本書のストーリーではメンバーの一人がプロダクトオーナーを務めています。

プロダクトオーナーの役割は、プロダクト バックログ アイテムの順位づけ(何をどの順番で実装するか)と、プロダクト バックログ アイテムの詳細化(あるべき姿を具体化し開発可能な状態に落とし込むこと)です。

「プロダクト バックログ アイテムの順位づけ」はプロダクト利用者、あるいはプロダクトをビジネスとして提供する人の視点で評価しなければなりませんが、そういった説明は省略されていました。

また、本書で言うようにプロダクトのローンチ時期、スコープ、コスト、品質は確かにトレードオフなのですが、プロダクトが産み出す価値が顧客にとって十分でなければトレードオフ以前に失敗です。

だからこそ難しいのがそのバランス。

ローンチ時期を延ばし、コストが増えれば、投じた費用を回収するハードルは上がる。

スコープを絞れば他社との競争に負けるかもしれない。

プロダクト バックログ アイテムに対するコストが相応しい効果を生み出すと言いきれなければ実装するかしないかを決められない。そんな決定の責任を開発チームに所属している人にさせるのは無理があると思っています。

アジャイルで開発するということは顧客のビジネスの一端を担うこと。まさに越境です。

本書ではプロダクトを作る側の視点だけに偏った印象を受けました。

作る側の視点に絞った話でもいいですけど、使う側、プロダクトをビジネスにする側の視点が重要であることにも触れてほしかったと思います。

でも、プラクティスの実践ガイドとしてはとても参考になりますので、アジャイルの採用を検討しておられる方はご一読されると良いと思いますよ。

カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで

カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで