バナナでも釘は打てる

柔らかく美味しいバナナでも、ちょっとした工夫で釘は打てます

読了 - 父が娘に語る経済の話

よく見たら長いタイトル

白地の帯にゴシック体の大きな文字で書かれた「経済の本なのに、異様に面白い」と、白地の装丁に書かれた「父が娘に語る経済の話」のタイトルがとても印象的な書籍。

よくよく見るとタイトルには「語る」と「経済」の間に小さな文字で「美しく、深く、壮大で、 とんでもなくわかりやすい」と入っていて、随分長いです。原題がこんなに長いのかと思ったら原題は「Talking to My Daughter about the Economy.」。つまり「美しく、…」は日本語版のために付け足したということのようですが、必要だったのかが謎です。

「経済の話なのに異様に面白い」は、本当。

本書に対する印象は「面白い!」「『経済って、そういうものだったのか!』が満載」です。

かつてのギリシャ財務大臣であり、現在はアテネ大学の経済学教授を務める著者が自分の娘に向けて経済を教えるために書いたとのことですが、大人にとっても十分というか、かなり面白い。

デフォルメもあるのでしょうが、わかり易い例えも多いし、易しい表現で書かれています。先に読んだ池上彰さんの本にあった「核心に迫るとシンプルに説明できる」は、まさに本書のことだと感心させられました。

「へぇー、そうだったのか!」は第1章から、いきなり出てくる。

農業が人類の生活を変えたという話は比較的よく聞く話だけれども、「余剰」が経済を生み出すモトだったという話は本書で初めて聞きました。しかも、その説明が納得。

  • 自分たちが食べる分と翌年、植える種以外の余った農産物が余剰。
  • 余剰は将来の備えになるため、共有倉庫に預けることになった。この時、誰がどれだけ預けているかを記録するために文字が生まれた。
  • 農耕には多くの人手が要る。そして収穫は先になる。労働時間を穀物の量に換算し、その数字を刻んだ貝殻を労働者に渡すようになった。これが初期の債務。
  • この貝殻は他の人が作った作物とも交換できた。これが通貨の始まり。
  • 一方で貝殻に刻まれた価値は刻んだ人(地主?)が死んでも必ず穀物と交換できる必要がある。つまり通貨に信頼できる裏付けが要るということ。そして信頼できる裏付けをする国家、制度を運用する官僚、制度を維持する警官・軍隊が誕生していく。

「おお、なるほど、確かにそういうことだったのかもしれない。」と感心しませんか?

さらに本書は、労働市場が生まれた理由、企業家とはどういう人か?金融機関の役割は?など、知ってるつもりだったけど本質はそういうことだったのかと目からうろこが落ちるような話が続きます。

また、本書では著者の意見も随所に書かれているものの、もっと大事なのは著者が投げかける問いにあるように思います。

「なぜ格差がそんざいするのか?」

金融危機、誰が助けてくれるのか?」

「人は地球のウィルスか?」

今の経済の仕組みと、その成り立ち、そしてそこに孕んでいる矛盾。考えさせられると共に、誰かに知ったかぶりしたくなる、そんな話が盛りだくさんです。

でも、堅苦しさはなく、物語のように綴られていて楽しくなってくる本でした。

もう一回、読み直したら、誰かに「余剰が経済を生んだんだよ」って話してみようかな。


ちなみに日本語訳も読み易いです。

本書の翻訳者 関美和さんによる代表的な訳書が後付に書かれていますが、こちらも期待してしまいますね。